「美容技術の中で得意なものは何ですか?」という質問にだいたいの人が「カット」や「カラーリング」と答えるでしょう。
恐らくパーマと答える人はあまりいないのではないでしょうか。
苦手意識が高いパーマ技術ですが、「パーマ剤」の成分は理解していますか?
成分の特徴を知り、パーマがかかるメカニズムをもう一度復習することで、苦手意識を減らせるかもしれません。
今回は美容室専売パーマ剤の成分について徹底解説していきます。
パーマの現状
現場で働いている美容師さんならご存知だと思いますが、現在パーマをかけるお客様が減っています。
パーマの出荷額と出荷数を見るとその現実がリアルに感じ取れます。
(出典: 「薬事工業生産動態統計調査結果」(厚生労働省))
平成11年から比べると、出荷額は1/3に、出荷量は1/4にまで落ち込んでいます。
この落ち込みは異常です。
では、実際にパーマをかけている人はどのくらいかというと、あるデータによると100人中25%程度で、残りの75%はかけていたが今はかけなくなった人と、一度もかけたことがない人に分けられます。
75%のパーマをかけない理由は、「時間がかかるから」「金銭的な問題」「手入れが面倒くさくなる」というものもありますが、一番の理由は「髪が痛むから」だそうです。
ちなみにカラーは100人中60%が染めていますので、両方やると傷むけどカラーを優先させる人が多いとも言えます。
これは、過去に傷んだ経験があったり、傷んだ人の話を聞いたりし恐くてかけられない人だと思います。
確かに全く傷まないわけではありませんが、毛髪を見極め正しい薬剤選定をすることでダメージを最小限に抑えることは可能です。
パーマがかかる仕組みは?
パーマ施術を行う上で薬剤の成分を知り正しい薬剤選定をすることが必要ですが、「そもそもパーマってどうやってかかるの?」という人のために少しおさらいを兼ねて説明していきます。
毛髪には「S-S結合」「塩結合」「水素結合」という3つの結合があります。
この3つの結合をパーマ1剤で切断します。
それぞれ
① 還元剤がS-S結合を、
② アルカリ剤が塩結合を
③ 水が水素結合を
切断します。
その後、中間水洗しパーマ2剤を塗布することで結合を再結合させます。
① 中間水洗によるアルカリ除去や、2剤のpH調整剤によりアルカリ性に傾いた毛髪を中和し、塩結合を再結合させ、
② 酸化剤が切断されたS-S結合を再結合させ、
③ 最後に仕上げで毛髪を乾燥させると、水素結合が再結合されます。
この化学反応が起こっている時にロッドが巻かれていたり、中間でストレートアイロンしたりすることで毛髪の形状を変化させることができます。
美容学校や勤めているサロンでも勉強したと思いますが、思い出しましたか?
パーマ剤の成分
では、肝心の薬剤の成分について解説していきます。
パーマは「医薬部外品」と「化粧品」の2つのカテゴリーに分けられます。
医薬部外品
医薬部外品のパーマ剤は薬事法の基準により有効成分とその配合量が決められています。
1剤の配合成分
成分 | 働き | |
還元剤 | チオグリコール酸(チオ系) システイン酸(シス系) | 毛髪中のシスチン結合 (S-S結合)を切る |
アルカリ剤 | アンモニア、モノエタノールアミン、 炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、 L-アルギニン | 毛髪を軟化、膨潤させて、 還元剤の浸透を促進する 還元剤の反応性を高める |
安定剤 | キレート剤、チオグリコール酸 | 製品の品質を守る |
反応調整剤 | ジチオジグリコール酸(チオ系パーマ剤の場合) | チオグリコール酸による還元反応が一定以上進まないように調整する |
添加剤 | 油分、脂質成分、樹脂、高分子ポリマー、 加水分解ケラチン、グルタミン酸、シリコーン | 手触りを滑らかにする 毛髪内部に栄養を補給 |
溶剤 | 精製水 | 上記成分を溶かす |
2剤の配合成分
酸化剤 | 臭素酸ナトリウム(4.0~10.5%) 過酸化水素(2.5~4.5%) | 切れたシスチン結合を 結び付けて固定する |
安定剤 | キレート剤、pH調整剤 | 製品の品質を守る、薬剤のpHを保つ |
その他添加剤 | 油分、脂質成分、樹脂、高分子ポリマー、 加水分解ケラチン、グルタミン酸、 シリコーン | 手触りを滑らかにする 毛髪内部に栄養を補給 |
溶剤 | 精製水 | 上記の成分を溶かす |
化粧品
化粧品のパーマ液は薬事法でのはっきりした規定はありません。
そのため、日本パーマネントウェーブ液工業組合が市場の混乱を避けるため自主基準を作成し、配合される還元剤の上限を定めました。
1液
2液
パーマ剤の分類
医薬部外品のパーマ剤は以下に分類されています。
◆パーマ剤1剤
チオグリコール酸 | システイン | |||
操作温度 | コールド2浴式 (室温) | 加温2浴式 (60℃以下) | コールド2浴式 (室温) | 加温2浴式 (60℃以下) |
pH | 4.5~9.6 | 4.5~9.3 | 8.0~9.5 | 4.0~9.5 |
還元剤濃度 | 2.0~11.0%※1 | 1.0~5.0% | 3.0~7.5% | 1.5~5.5% |
アルカリ度 | 7mL以下 | 5mL以下 | 12mL以下 | 9mL以下 |
縮毛矯正(ストレート)1剤
チオグリコール酸 | ||||
操作温度 | コールド2浴式 (室温) | 高温整髪用アイロンを使用するコールド2浴式(室温)※2 | 加温2浴式 (60℃以下) | 高温整髪用アイロンを使用する加温式(60℃以下)※2 |
pH | 4.5~9.6 | 4.5~9.3 | ||
還元剤濃度 | 2.0~11.0%※1 | 1.0~5.0% | ||
アルカリ度 | 7mL以下 | 5mL以下 |
※1 チオグリコール酸の濃度が7.0%以上の場合は超過分だけジチオジグリコール酸が必ず配合されています。
※2 高温整髪用アイロンの使用温度は180℃以下。
セット料自主基準
セット料の自主基準表です。
還元成分の上限 | ||
還元剤の種類 | チオグリコール酸・システインなど | システアミン・チオグリセリンなど |
チオグリコール酸またはシステインまたはその両方を配合 | チオグリコール換算で2.0%
| |
システアミン・チオグリセリンなどセット料成分との混合 | チオグリコール換算で総計7.0% |
また、上記表にはない「サルファイト」は配合上限は決められていません。
一昔前のセット料のイメージはかかりが弱いがダメージも少ないというイメージでした。
しかし、還元剤が7%までしか配合できませんが、アルカリ度やpHの調整でかなりしっかりかかるものも増えています。
気を付けないと“失敗”する確率が増えます。
還元剤の種類
チオグリコール酸(分子量:92)
通称「チオ系」。
最も一般的かつ効果的で、作用が安定しています。
システイン(分子量:121)
通称「シス系」。毛髪に含まれるアミノ酸の一種です。
システアミン(分子量:77)
分子量が小さく髪になじみやすいため、低pHや少量でも効果が高いことが特徴です。
低pHでチオグリコール酸並にかかる、化粧品で配合可能な還元剤です。
サルファイト(分子量:126)
化粧品用途の還元剤としては結合を切断しない還元剤なので、とてもマイルドな還元力で褪色も少ないです。
美容の薬剤としては歴史が長く、目薬やワインの酸化防止剤に使われるなど皮膚や身体への影響が少なく安全性が高いです。
チオグリセリン(分子量:108)
臭気・残臭が強いですが、低アルカリ量で高pH(9付近)にできます。
チオ並にかかるためpH・還元力が同じチオと比べてダメージが少ないです。
ブチロラクトンチオール(分子量:118)
非常に強い不快臭がしますが、酸性領域でアルカリのシス並にかかります。
構造内に親水性と親油性を持つのが特徴です。
水溶液にすると短時間で分解してしまうため、使用時に適量を混ぜて調整する「用事調整タイプ」にして使用することが多いです。
アルカリ剤の種類
アンモニア
強い効果を持つパーマ剤を作れます。
刺激臭は強い反面、揮発性が高いので1剤放置中にpHが下がり、オーバータイムになりにくいです。
モノエタノールアミン
強い効果を持つパーマ剤が作れます。
刺激臭は弱いが毛髪に残りやすく、オーバータイムによるダメージの心配があります。
アルギニン
塩基性アミノ酸の1つで、毛髪になじみやすいのが特徴です。
アルカリ剤としての作用は弱いが反応が穏やかなので、オーバータイムによる毛髪へのダメージは比較的少ないです。
炭酸水素アンモニウム
炭酸とアンモニアで作られた弱アルカリ性のアルカリ剤です。
1剤のpHが上がりにくく、反応が穏やかなのでオーバータイムの心配が少ないです。
アルカリ剤としての作用は比較的弱いです。
酸化剤の種類
活発に作用する条件 | 作用時間 | 質感 | 配合できる分類 | |
臭素酸ナトリウム | 酸性 | ゆっくり (10~15分) | 反応後、塩(えん)が生成され引き締るため、 しっかりかかる | 医薬部外品 化粧品 |
過酸化水素 | アルカリ性 | 早い (3~7分) | 反応後、水しか残らないため何もついてないため、 ふんわりかかる | 医薬部外品のみ ※化粧品は配合禁止 |
スペックを理解しておきましょう!
パーマの成分については理解できましたか?
パーマ剤メーカーでは紹介してきた成分を、配合濃度の調整や組み合わせによってパーマ剤を開発しています。
そのため、メーカーによって同じ有効成分でも、仕上がりの質感やダメージ度合が違ってきます。
また、「還元剤濃度」「pH」「アルカリ度」によってパーマ剤の強弱が決まります。
例えば、同じ還元剤濃度でもpHやアルカリ度の違いで全く別のパーマ剤となります。
成分表だけではわからない情報がありますので、販売メーカーやディーラーに質問しご使用のパーマ剤のスペックを理解しておきましょう。
また、最近は「システアミン」や「ブチロラクトンチオール」などの化粧品登録でダメージを抑えてかけるセット料が主流となっています。
特に、「ブチロラクトンチオール」配合のセット料は酸性域でカール形成が実現できますので、よりダメージを少なくかけられます。
施術中の臭いは独特ですが、お客様の髪のことを考えるとこういったものもフル活用する必要があります。
お客様にパーマを提案しよう!
今回は“パーマ剤”について解説してきました。
数字が多く嫌気がさしてませんか?
しかし、何となく感覚で使いがちな薬剤のスペックを知ることで、どんな髪質に向いているのかの理解が確実に深まります。
まずは、お使いのパーマ剤のスペックを調べることから始めましょう!
ある調査によると、美容室でパーマを勧められる人は、平均で1割位しかいないというデータがあります。
一方で、パーマをかけてみたいという人は平均で4割ほどいるそうです。
誰にでも提案すればいいわけではありませんが、潜在的にかけたい人がいるのは事実です。
カウンセリングをしっかり行い、必要であればぜひ自信をもって提案してみましょう。