以前の投稿で田谷を調査しましたが、赤字続きで「ビジネスモデルの崩壊」について言及しました。「田谷の経営分析をしたら美容室業界の未来がうっすら見えた」
この記事は多くの方から反響をいただいたので、今回は大手サロン調査企画の第二弾です。
AshやNYNYといったヘアサロンブランドを全国に216店舗展開(2016年4月現在)する、株式会社アルテサロンホールディングスについて調査しました。
アルテサロンの直近5年の売上/営業利益の動向(2010年度~2015年度)
では早速、売上の推移などベーシックな数字を見ていきましょう。
田谷の様に、大型店舗を有する企業は、競争激化や人材不足などあらゆる要因で、どこも厳しい状況を強いられています。しかし、ち
直近では売上高は6%成長で着地しています。
次に営業利益を見てみましょう。
営業利益は下降気味だったのが、昨期に少し持ち直しています。
更に注目すべきは、そもそも利益が出ており、黒字経営であることです。
田谷は昨期2億円の赤字を出していました。同じ美容室を経営するという事業でなぜここまで差が出るのでしょうか。
更に細かく分析していくと、アルテサロンのこんな秘密が明らかになってきました。
田谷は“直営”、アルテサロンは“フランチャイズ”
こちらを御覧ください。
実は、アルテサロンホールディングスの殆どはフランチャイズ(FC)店舗なのです。
※アルテサロンはAshなどの”暖簾分け型”とスタイルデザイナーの”外部加盟型”という2つのモデルがあります (アルテサロンホールディングスHP 事業内容 )
フランチャイズとは
フランチャイズとはフランチャイザーが一定の条件でフランチャイジーに営業権を与え、対価としてロイヤリティを受け取る契約形態のことをいう。(出典:コトバンク)
つまり、アルテサロン本体が全てのサロンを直接経営しているのではなく、経営指導や材料の共同仕入れなどのサービスを提供している会社ということになるわけです。ですから、実際に直営で店舗経営をしている田谷に比べてアルテサロンの利益率は費用が少ないため高くなります。そして、その差は不況時に大きく拡大して赤字時経営と黒字経営という両極端な結果を生むことになります。
ただし、この分析は単に仕組みの話であって、店舗自体が赤字であればロイヤリティ収入は入りませんし、逆に好況時に入ってくる利益というのは少なくなります。アルテサロンは、田谷に比べてローリスクローリターンな経営方針を取っているということになります。
実際に有価証券報告書を見ると、直営店比率がAshよりも高い子会社のニューヨーク・ニューヨークは赤字経営であることがわかります。美容業界全体の流れとして、集客と求人の両軸が難しい現状では大型店の経営はかなり難しいものになっており、今回の分析でもビジネスモデルの崩壊を裏付けるような形となりました。
Ashの”暖簾分け型”とスタイルデザイナーの”外部加盟型”とは
一口にフランチャイズと言っても、アルテサロンの場合は種類が2つあります。この戦略が、田谷との命運を分けたポイントになります。詳しく分析していきましょう。
暖簾分け型
暖簾分けというシステムがこの業界でも使われるようになったのは、もとを辿れば人材の流出を防ぐために取られた手段でした。
この業界では、職人である美容師は独立志向が強く、実力がつくと自分の店を持つことを望みます。一般には、従事してきた会社(店)を退職し、小さな美容室のオーナーとなってスタートをします。実は、これは雇っていた会社(店)にとっては稼ぎ頭が退職するという損失です。また、独立した美容師も、小さい規模からのスタートなので、将来のリスクと対峙することになります。
引用:株式会社アルテサロンホールディングス HP
これを何とかしようと考えから作り出されたのが、アルテサロンの暖簾分け型という仕組みです。
現在は既にNYNYでも暖簾分け型での独立が可能になっているようです。
外部加盟型
アルテサロンはスタイルデザイナーという連結子会社をもっています。
引用:株式会社アルテサロンホールディングス HP
この会社が加盟型のフランチャイズ方式で大きく店舗数を伸ばしています。財務諸表が田屋に比べて大きく違い、よく見えるのはこのスタイルデザイナーが大きく関係しています。やはり、美容師さんはどこかで、自分のサロンを持ちたいと考える方が多いと思います。しかし、現状はあまりにもリスクが高い状況です。そんな時に、経営ノウハウはもちろん、開業までのサポートをしてくれるのがスタイルデザイナーなわけです。
アルテサロンの行く先
田谷の分析でもお伝えしましたが、大型店はますます厳しい状況となってきました。これはアルテサロンにも当てはめることができます。たしかに、財務上は良く見えますが、NYNYが赤字であるように、サロン経営は難しくなっています。また、集客と求人の両軸が難しくなってきている中で、特に大型という形態は非効率かつリスクが高くなっています。
現在、アルテサロンは店舗面積の縮小を進めています。HPに、開店した店舗と閉店した店舗の面積が記載された資料が公開されていますので、見ていただけると面白いかと思います。(アルテサロンホールディングスHP 月次売上情報)
更に、「choki Peta」という新たなブランドを立ち上げ、急成長を計画しています。
美容室大手のアルテサロンホールディングス(HD)は首都圏で展開するカットとヘアカラーを専門にした低価格店「チョキペタ」の出店を拡大する。2016年12月期に10店開業し、店舗数を前期の2倍に増やす。同業態はパートが主力。短時間でも働きやすい体制を整え、美容師免許を持っていても育児などで働いていない女性らの再就職を働きかける。
引用:日本経済新聞
人材の確保が難しい今の美容業界で、育児などで仕事できていない元美容師の女性たちをターゲットに人を集め、店自体は格安路線というのは、時代に沿った良い戦略に感じます。
“美容業界の競争って東京以外はどうなの!?”でも取り上げましたが、美容室当たりの人口が今後も減少しつづけることを考えれば、サロン経営の難しさは高まるばかりです。業界を引っ張ってきたアルテサロンが生き残っていくために、今後どのような展開を見せてくれるのか。今後も注視していく必要がありそうです。